数日後。
俺と悟浄は、悟空と八戒をとある裏山に呼び出した。
「三蔵~!!急にどうしたんだよ~。」
「ここで何かやるんですか、悟浄。」
これからこの二人にあの記憶を全て呼び戻す作業をすると思うと、決心が少し鈍ったが、悟浄に名前を呼ばれて、我に返った。
…こいつらは必ず俺たちの元を離れたりはしない。
「…お前たちに、俺たちが持っている過去の記憶を取り戻す作業を施すために呼びつけた。」
「三蔵…!!」
「悟浄、もしかして三蔵に…??」
「あぁ、三蔵と相談して、頃合いだろうってなったから、な。」
それを聞いて、悟空も八戒も、とても嬉しそうにしていた。
俺と悟浄には、いささかその笑顔ですら、不安に感じるのだが。
「さぁーて、ちゃっちゃと始めるぞ。」
悟浄が指の腹をかじり、血を出し、悟空と八戒の手のひらになすりつけた。
「そこの御座に2人とも目を瞑って座ってくれ。そしたらあとは三蔵サマの出番だから。」
2人はおとなしく御座に座った。
さて、ここからは俺の番だ。
「……」
淡い光が、悟空と八戒を包む。
記憶転送が始まった証拠だ。
「始まったか……。」
「あぁ。」
実は彼らに伝えていないことが少しあった。
俺と悟浄の持つ記憶と、悟空と八戒が持つ記憶は少しずつ違う。悟空は先祖の悟空の記憶、八戒は先祖の八戒の記憶しか転送できない。
それは俺たちも同じだった。
ただ、俺と悟浄は、互いに今までの記憶を持ち続けていたので、記憶を共有するほどの情報をやり取りしていた……ただそれだけだった。
少しして、淡い光も消えたので、悟空と八戒に、目を開けるように言った。
「…は、八戒??」
「…ん。……悟、浄。」
「…な、何とも、ないか??」
そう悟浄が言うと、八戒はいきなり俺に抱き着いてきた。
「悟浄…悟浄……!!!!もう離しませんからね!!…あなたを一人にはしません…!!!」
八戒がどんな記憶を手に入れたのかはわからない。
でも、悟浄の腕の中には、八戒がまだいる。
きっとやつにはそれで十分だろうと俺は感じた。
ふとすると、悟空も俺の手をきつく握っていた。
「悟空…??」
「三蔵…俺、俺……。俺と同じ思いを三蔵にさせたくなかった。これまでずっと、俺とか八戒は、昔の記憶がないのに、一生懸命俺たちのことを探して、俺たちを説得して、記憶がなくても、俺たちを傍においてくれてたんだろ…??…それって、すんげーツライことじゃん!!」
悟空は大粒の涙をその金目から落としていた。
…確かに悟空の言うように、昔のように、俺の傍を離れないような悟空ではなかった。
好きなように動いて、自由な悟空。
本来、その方がこいつにはあっているのではないかと思っていた。
「俺、三蔵が全部だから!!…俺は、三蔵の傍にいたいだけだから!!…だから三蔵、もうそんなつらそうな顔…すんな……!!もう離れないから!!ぜってー三蔵が嫌だっても、離れねぇから!!」
記憶がたくさん頭の中に入ってきて、混乱しているだろうに、目の前のこいつは、俺を求めてくれる。
「…あぁ、覚悟しろよ、馬鹿猿。」
ようやく俺たちは、「俺たち」に戻った瞬間だった。
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