「吉野、着替えたぞ。」
俺は今、吉川千春こと、吉野千秋の実家にて、高校時代の制服を着ている。
なぜ高校時代の制服を着ているのかというと、吉野が今度書く漫画の資料集めのためだ。
学生時代の頃からだいぶ時が経ったせいか、今描いている学生恋愛系の漫画の案が浮かばなくなってきているらしく、そのため、高校時代の恰好をして、俺たちの母校に乗り込み、昔のイメージを取り戻そうと思ったらしい。
「よーし、俺も着替えた!!んじゃトリ、このまま昔みたく、学校に行くぞ~!!」
その言葉を合図に、俺たちは吉野宅のドアを出た。
物心つく前から、吉野と当たり前のように通った通学路。
当たり前のように学校も同じで、なぜかクラスも同じだった。
当時から俺は吉野ことが好きで、片時も離れたくなかったが、吉野はどうだったのだろうか。
「吉野。」
「ん~??なに、トリ。」
「お前、学生時代、俺のことはやはり幼馴染として見ていたんだよな。」
そう言うと、吉野はなぜか困ったような顔をしてきた。
「吉野??」
俺がまたはなしかけても、反応を返さない吉野。
…まずいことを聞いたのだろうか。
ふと思っていると、吉野が口を開いた。
「当時はそう思ってた。…けど、今思い起こすと、多分俺もその…トリのこと、好きだったんだと思う。……その想いに気づけていなかったんだと思うんだ。最近そう思ってきたんだよ。」
驚いた。吉野も本当は俺のことが昔から好きだったのか…??
吉野は、下を向いたまま、続きをぽつぽつと語り続けた。
「実は…さ、トリがクラスの女子にコクられたとか…そういう話聞いたとき、ほんの一瞬だけ苦しいな…って思うことがあったんだよ。でも、俺鈍感だから…そういうの、全然気にしてなくて。その一瞬のあとはいつも「いいなー」って気持ちになってたんだ。だからトリへの本当の気持ちに俺は気づけなかった。……ゴメンな、トリ。…つらかったよな…。」
俺は嬉しかった。
吉野が俺のことを本当は昔から今みたいな感情を持っていてくれていたということが。
吉野が下を向いたままなので、顔を見たくて、今の気持ちを素直に伝えることにした。
「いいや、……嬉しいよ、千秋。」
「トリ…!!」
「お前が素直にそんな話をしてくれるくらい、俺のことを気にしてくれている…というわけだからな。」
「そ、それは…こ、恋人なんだから…あ、当たり前だろ!!…ただでさえ、今日も仕事につき合わせちゃってるし…。その…この歳でコスプレさせてるわけだしさ…。」
「それじゃあ、お詫びを俺から要求してもいいか、吉野。」
そう俺が言うと、吉野はぱっと顔をあげ、俺の言葉を待った。
本当に可愛いやつ…だ、吉野千秋という人間は。
「…学校まで、手をつないでくれないか、千秋。」
「うえっ??!!」
「人が通るときは離して構わない。…だからそれ以外は繋いでくれないか。…学生時代の俺の夢のひとつだったんだ。」
吉野は耳まで真っ赤にしてわなわなと震えていたが、すっと手を出してきた。
「…が、学校までだからな。……芳雪。」
吉野はまた、俺の夢を叶えてくれた。
…知っているか、吉野。
俺の最大の夢は、お前と死ぬまで共にいること。
俺の夢のひとつに、お前と好き合うことがあったのを、お前が叶えてくれたということ。
俺の最大の夢を、お前は叶えてくれるために、俺の夢のひとつひとつを叶えてくれているということを。
「吉野。…家に帰ったらお前を抱きたい。」
「お、おい!!そういうことをここで言うなよ…!!」
「じゃあここじゃなければ言っていいんだな。」
「…こんの…馬鹿トリっ!!」
[9回]
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