「ではまたご鞭撻お願いいたします------。」
今日も今日とて、龍一郎は専務として、接待業務をしていた。
「お疲れさまでした、専務。本日は以上です。」
「朝比奈…車回してくれ。」
「かしこまりました。」
「落としの井坂」と恐れられている龍一郎だが、今日の接待相手はとにかく説教好きだった。
少し龍一郎が強気に出ると、出る杭を打つかのごとく、説教で対抗してきた。
一番龍一郎が許せなかった台詞は、「こんな若造と話すものなど、レベルが低過ぎる」という言葉だった。
龍一郎の年齢で取締役は確かに若い方だが、実力は群を抜く。
これは龍一郎自身も自信のある唯一の部分でもあった。
朝比奈という右腕を手に入れるため、努力の末手に入れた地位でもあったからだ。
しかしそれを否定されては流石の龍一郎も凹む。
それをいち早く気づいた朝比奈は、接待相手にこう言った。
「私は専務を昔からお側で見ていました。専務はお若いながらの感性を生かした仕事をたくさん成功させていらっしゃる功労者だと思います。」
朝比奈は真剣な眼差しで伝えたのが功をそうし、その後の接待はうまくいった。
しかし龍一郎は落ち込んだままだった。
「……ろうさま。龍一郎様。」
「あ、あぁ。さんきゅ、朝比奈。」
ショックが大きかったせいか、朝比奈の呼びかけにも上の空な龍一郎。
それを見かねた朝比奈は、龍一郎の乗った後ろのシートに一緒に乗り込んだ。
「あ、朝比奈??」
「龍一郎様…あなたの努力は私が一番わかっています。…私のために偉くなってくださり、私の側にいつもいらしていただけて、私は本当に幸せなんですよ。」
「ですから、…誰がどんなに龍一郎様を貶すようなことを言っていたとしても、私が最後まであなたの盾となり、矛となります。ですから龍一郎様、いつもの勢いを失わないでください。-------あなたにはいつも笑顔でいてほしいですから。」
そう言って、朝比奈は龍一郎を抱きしめた。
対する龍一郎は、朝比奈の歯の浮くような台詞に顔から火が出る程照れてしまい、俯いてしまった。
しばらくして、朝比奈が龍一郎から離れて、運転席へと移動した。
車の発進音がして少し後、意を決したように龍一郎が一言朝比奈に言った。
「朝比奈、今日はお前ん家行く。」
「かしこまりました、龍一郎様。」
[10回]
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