次の日、俺は高野さんに吉川千春行方不明と今後のことを話し合うため、いつもより早めに出社した。
するとおかしなことがエメ編で起きていた。
「おはようございます。」
「おぉ、トリ。吉川先生から来月号の新作のキャラ表がファックスで送られてきたぞ。…いつもはデッド常習者なのに、今回は早いな。何か言ったのか??」
(吉野からファックス?!そんな馬鹿な…!!)
驚きのあまり、反応が遅れたため、高野さんが不思議そうに俺を見てきた。
「なんだ、トリ。お前何も言ったりしてないのか、吉川先生に。」
「あ、いえ……高野さん、ちょっと吉川千春のことで話があるのですが、お時間よろしいでしょうか。」
吉野からのファックスを受け取り、高野さんにお伺いを立てると、「大丈夫だ。…会議室の方が良いか??」と簡単にOKをもらえたので、空いている会議室で、俺が遭遇した昨日の出来事を高野さんに話すことにした。
「ということがありまして。…その、吉川千春から仕事の連絡がくるとは思わなかったんです。」
「なるほど、な。「編集者」としては…原稿がくりゃ、何とかなると言えば何とかなるが……。トリ、「男・羽鳥芳雪」としては…そうもいかないんじゃないか??」
…どうやら高野さんは俺と吉野の関係を気づいているようだ。
今はそれをどうこうして隠すなどやっていられる余裕もないと判断した俺は、素直に自分の考えを高野さんに話すことにした。
「そうですね。「編集者」として、作家だけで完璧なものばかりあげられる…というのも悔しい限りですが、助かります。…でも「恋人」としては、吉川千春…いや、吉野千秋の行方が心配で仕方がないです。」
俺の返答に満足したのか、高野さんは満面の笑みを浮かべてきた。
「おっし。それじゃあ「編集長・高野政宗」としては、今回の完璧な吉川千春先生の仕事を何一つけなすことは出来ない。むしろ完璧すぎて驚いているくらいだから、このまま作品を作ってもらう方向でいくぞ。」
「はい。」
「俺の読みが正しければ、こっちが連絡しなくとも、締め切りに間に合うように作品がここに送られてくるんだろうな。」
「そうだと俺も思います。」
「…んで、「男・高野政宗」としては、だ。」
そこまで言って、高野さんは一気に真剣な顔つきになった。
「…トリ。お前、大切な恋人がいなくなったら、お前には何もなくなるんじゃないのか…??」
「そう、ですね。…何しろ物心ついた時から想っていた相手ですから。」
「すげぇな。」
高野さんはそれを聞いて遠い目をしていた。
高野さんと前飲みに行ったときに言っていた、「10年前にいなくなってしまった恋人」のことを想っているのだろうか。
そうだとしたら、今の俺を重ねているのかもしれない。
「…俺も吉野さんを探すのを協力してやる。だから絶対諦めんなよ、トリ。」
「……!!」
「というか、エメ編の総力を挙げて探してやる。編集長命令で、な。」
「高野さん…!!」
「その代わり、見つかったら仕事3倍で御礼しろよ。」
「はい。」
俺は本当に職場の同僚に恵まれた。
…あとは吉野の手がかりのピースを集めるだけだ。
少しだけ希望の光を手に、俺は会議室をあとにした。
to be continued.
[7回]
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