『ザァァァァァァ………』
昨日から、アメストリス東部も梅雨入りとなった。
「…そして私が無能と呼ばれる日々が始まるのだな……。」
私は東方司令部国軍大佐のロイ・マスタング。二つ名を「焔」。
二つ名の通り、私は「焔の錬金術師」なわけで、超攻撃的錬金術師であるが…雨が弱点である。
そんなわけで、雨の日は決まって部下たちに「無能」と呼ばれてしまい、事件があっても執務室から出してもらえなくなる。
しかし、私にとっての「雨」は、もうひとつの「意味」があるのだ……。
「雨は私の罪を少しでも流してくれる…そんな気持ちがするから外に出たいのに…。」
そう。私がイシュバールで犯した罪を少しでも軽くしてくれそうな…そんな気がすることもあり、私は雨の日は決まって傘を差さずに外出したくなるのだ。
罪から逃れることは出来ないと知りながら…だが。
今日も事件で部下が出て行き、私は一人執務室に残っていた。
「流石にすぐには帰ってこれなさそうな事件だったしな……少しくらいは外に出てもバレないだろうし…いいか。」
そう思い、私は傘を差さずに、司令部を出た。
『ザァァァァァァァ……』
やはり雨は何かを洗い流してくれているような気分になる。
しかし、それと同時に、あの頃幾度となく聞いた悲鳴が頭の中を巡る。
だんだんその悲鳴が強くなってきて、私の頭も痛くなってきた。そんな時、ふっと頭からかぶっていた雨が止んだ。
「あんた何やってるんですか。こんなところで雨に打たれて……シャワーだとでも思ったんですか。」
雨を止めたのは部下であり…私の想い人なジャン・ハボック少尉だった。
私に傘をかざしてくれているため、ハボックの軍服が濃い青に染まり始めている。
「…好きでやっているから気にするな。それより少尉が濡れるだろう。風邪をひかれても困るから、私に差さなくても良いぞ。」
「…そんな辛そうな顔しているのに、好きでやっているとかうそでしょ。それに風邪をひかれたら困るのはあんたの方です。俺は代えがきくけど、あんたはきかないでしょ。」
代えがきく…??
馬鹿を言うな。お前の代えはどこにもいない。私の好きなハボックは…
「お前しかいないから。」
「はい??」
しまった。声に出ていたか。
「いや、何でもない。」
「俺しかいないってどういうこと??…あぁ…確かに肉体労働派は俺しかいないかもしれないけど。」
あぁもうこうなったら当たって砕けるか。ロイ・マスタングともあろう私が玉砕など…。
「仕方がないか…。…お前の代わりなど、どこにもいないよ。もちろん部下としてでもあるが、「私の好きな男」としてのお前の代わりは…な。」
あぁ…そんな困った顔をするな。嫌いならすぐに嫌いと言ってほしい…。そんな葛藤をしていると、ハボックは傘を放り出して、私を抱きしめてきた。
「大佐…!!それ、告白と受けとめていいの??俺、そう受けとめるよ??…すんげぇ嬉しい///」
「えっ…?!」
なんと結果オーライときた!!
「俺、ずーっと大佐大好きでした。でも大佐は無粋な女好きでしょ…??だから絶対俺、諦めなきゃならないんだな…って思っていたんです。でもでも!!大佐と両想いだったなんて…俺…幸せすぎて、今日死んでもいいわ……!!!!」
「いや、死なれると困るのだが。」
「冗談ですよ(笑)……にしても、雨の日にこーんなに幸せなの、俺初めてかも//」
それはそっくり返すよ、ハボック。
私はいつも無能やら罪を流して欲しいやら、雨の日はめっぽうよくないことについてばかりの日だったが、今日ほど嬉しい日はないよ。
有難う、ハボック。
そして
これから末永くよろしく。
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