吉野がいなくなった週末。俺が向かったのは、中学からの同級生で、犬猿の仲でもある「柳瀬優」の家だった。
「…千秋じゃなくて何でお前がうちに来るんだよ、羽鳥。」
「俺も出来れば来たくなかった。…だが、今回ばかりはお前を頼らざるを得ないからな…。」
柳瀬は俺の知らない吉野を知っている可能性が一番高かった。
今回の件で千秋が悩んでいる間、一番その変化に気づけるのは、俺以外だとこいつしかいなかった。
「単刀直入に言う。吉野がいなくなった。」
「はぁ??修羅場じゃあねぇのに何で??」
柳瀬は心底驚いているようだった。
この反応をみる限り、柳瀬も吉野の葛藤に気づけていない可能性が高いが構わず続きを話すことにした。
「修羅場中、吉野に何か変わりは無かったか。」
「変わりねえ…。…あ。そういや千秋、やたら『今月は絶対締め切り守らなきゃなんだ。』って言ってたな…。お前またキツく締め切りのこと言ったのかよ。」
吉野が締め切りを守ろうなんてことはそうそうない。(守ろうとするのが普通だが。)
「いつものレベルでしか言っていない。それにペースは順調だったしな。」
となると、締め切り後に何かあったのだろうか…。
「そういや、千秋変なこと言ってたな…。『催眠術ってほんとにかかっちゃうのかなぁ』って。んなわけあるかって俺は言ったんだけど、あのときの千秋の笑った顔、すんごくひきつっていた気がしたな…」
これ以外、柳瀬は心当たりがないと言っていたので、俺は柳瀬の家から出た。
吉野は失踪しているが原稿は届いていることは柳瀬には伏せといた。
事を広げてはいけないと高野さんからも言われていたからだ。
自宅に帰ったら、携帯が鳴ったので出てみると、電話の主は美濃だった。
『あぁ、羽鳥??今大丈夫??』
「あぁ。どうした??休みの日に。」
『それがさ…俺、作家の資料集めでさっきまでマジックショーを見ていたんだけど、マジシャンのアシスタントがさ……吉川先生だったんだ。』
俺はあまりにも信じられない組み合わせで、ワンテンポ反応が遅れた。
『羽鳥大丈夫??』
「あ、あぁ、大丈夫だ。それで、どうして吉野がそこにいたのかわかったのか??」
『僕に調べてみたら、そのマジシャン、羽鳥と同じ大学を出た人だったんだ。しかも羽鳥と同じ学年で同じ学部。確か吉川先生も同じ大学だったんだよね??』
マジシャンで、俺と吉野が知っている人物は、一人しかいない。
そしてそいつなら、本当に吉野を催眠術にかけることは可能だろう。
「美濃、情報有難う。吉川千春は逃亡に見せかけ、拉致された可能性がある。」
そう、そいつの名は-------『加藤 大樹』。
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加藤と知り合いになったのは、たまたまだった。
吉野が学内で落とし物を拾い、落とし物を学生部へ一緒に届けに行ったら、落とし主な加藤に出会った。
大切なものだったらしく、拾って届けようとしてくれた御礼がしたいと、俺達を学食へ連れて行った。
その時、加藤は有名なマジシャンの弟子だということを知った。どうやら吉野が拾ったのは、そのネタ帳だったらしい。
そして、同時に、あいつの目線は、吉野にばかり向けられていたことに俺は気が付いた。
…その目線から、やつは俺と同じ感情を抱いているのだろうことも。
程なくして吉野は大学を中退したので、やつとの接触はもうないと思っていた。
しかし、美濃の話していたことが本当なら、修羅場中に加藤は吉野に接触し、何らかの方法-----おそらく催眠術-----で吉野を操り、傍に置いているのだろう。
「あいつの家はすぐ調べられそうだが…催眠術なんて、どうやってとけば…。」
全貌があらかたわかったが、肝心なことは未だ何もわからず仕舞いだった。
[8回]
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