「千秋……!!」
吉野の家に着いた途端、俺は玄関前にもかかわらず、吉野を強く抱きしめていた。
「ト、トリ…ほんとにごめんなさい……。」
「謝らないでくれ。担当として…恋人として……お前の変化に気づけなかった俺が悪いから。」
そう言って吉野の顔を見ようと、体を離そうと動いたが、吉野が案外強い力でそれをさせるまいと抱きついてきた。
…吉野の体温が懐かしく感じる。
実質、吉野と離れていたのは数週間だったのだが、普段から編集と漫画家という関係上、仕事とはいえ吉野の顔を頻繁にみられる状況だった俺には、この数週間はかなりきついものだった。
それ程までに、俺はコイツ-----吉野千秋に依存しているのだろう。
そう思うと、いつも吉野が「俺、いつもトリに頼ってばかりで申し訳ない」という言葉に対して、俺もそのまま吉野に返したい気分になった。
「吉野。」 「あのさ、トリ。」
俺が話しかけたと同時に吉野も話しかけてきた。
とりあえず、吉野の方を先に聞くことにした。
「…その、トリが謝ることは何にもないよ。…俺がまた人の想いに気づけなくて蒔いた種だった…わけだし。…その、トリに相談しなかった俺の方がもっと悪いわけで。あー…だから、その、お詫びと言っちゃああれだけど、今日はトリのワガママ何でも聞くよ!!…あーでも『締切半年間ずっと守れ』とかはなしだぞ??」
コイツは…俺をどれだけ甘やかせば気が済むんだ。
吉野は、普段色々と鈍感なのだが、時々勘が妙に鋭いというか、必要以上に気を遣うことがある。
…恋人であり、幼馴染な俺でさえ。
でも今日はこのまま少し甘えてしまおうか。
「…それじゃあ少しだけ甘えさせてくれ。あまり甘えると、歯止めがきかん。」
「は、歯止めって…え、エロいことかよ!!」
「それもあるがその前に。……『お帰り、千秋』。」
「ん……ただいま、トリ。」
「あと、昔みたいに名前で呼んでほしい。…二人きりの時だけで良いから。」
「ま、まじ??」
「甘えていいんだろ??すぐにとは…「よ、芳雪、ただいまっ////」………!!」
「芳雪、俺、もうお前と会えないって思ったとき、本当に辛かった。でもまた逢えて本当に良かった……。俺っ、俺っ……!!」
千秋はようやく緊張がほぐれたのか、涙をぼろぼろと流し始めた。
いつになく大粒の涙。
俺はそれがとても勿体なく思い、気がついたら唇で涙を拭っていた。
「ト……じゃなくて、よ、芳雪??」
「お前の全てが愛おしいよ、千秋。愛してる。…もう絶対に離さない。」
「うん。俺も離れない。…芳雪と共にあり続けるためなら、俺は何にだって立ち向かうよ。芳雪がそうしてくれたみたいに。」
fly to arms for you
---------あなたのため…あなたのためだけにわたしは武器をとる
[7回]
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