営業で行った書店の一件で、桐嶋さんを知っている人に会った。
「桐嶋と同じ会社の人か!!あいつ元気にしてるか??…あいつ意外と疲れとか弱音はかねぇし、表情にも出ねぇだろ??…頼りな奥さんも他界しちまったしなぁ…。」
自分は最近桐嶋さんと…深く関わるようになったばかりだから、この人ほど、桐嶋さんのことはわかっていないのかもしれない…と思うと、気分がぐっと下がってしまった。
とはいえ公私混同して仕事に影響を出すわけには…と思い、何とか仕事はこなした。
でも、やはり落ち込んだ気持ちはなかなか回復しない。
(今日は自宅に帰ろう…。)
こんな気分でひよに会ったら、心配をかけてしまいそうだと思った俺は、桐嶋さんに、一言メールを送り、帰路につくことにした。
身支度を整え、さぁ帰るぞとなったとき、今一番会いたくない人物-------桐嶋さんが営業部にやってきたのだ。
「横澤、お前もう帰れるんじゃねぇか。…これから飲みに行くぞ、付き合え。」
「はぁ?!あんたちゃんとメールみたのか??」
桐嶋さんは、当たり前のようにメールは見たと言ってきたが、見たのに飲みに誘いに来るなんて…勘が鋭いのだろうか。
「とりあえず行くぞ。」
そう言って、桐嶋さんは俺を引きずり、営業部をあとにした。
「おいいい加減にしろよ、桐嶋さん。」
飲み屋の席に無理矢理座らされた俺は、何とかいつものように毒づいた。
しかし桐嶋さんもいつも以上に軽く流してくる。
「聞いたぞ、お前今日外回りして帰ってから機嫌が悪いらしいじゃないか。何か営業先であったのか??」
とりあえず生ふたつ、と自然な流れで注文をする桐嶋さん。
営業の誰かがチクったのか…と思うと少し腹が立ったが、まさか桐嶋さんの知り合いにあって嫉妬したみたいなことをこの人に言えるはずがない。
かと言って、このまま隠し通すことも桐嶋さん相手には無理だろう…。
そう色々な考えを巡らしている間にビールがやってきた。
「そういや今日、俺が昔よく行ってた書店に行っていたらしいな。元気だったか、店長。」
どうしてこうも考えたくないネタを掘り当てるのがこの人はうまいのか…。
「…元気そうだったぞ。あんたのことも心配していたぞ。…話はそれだけなら俺は帰る。代金は置いていくから…。」
そう言い、足早に去ろうとした俺の腕を、桐嶋さんは強く握ってきた。
「悪い。あいつ、お前に嫌な思いさせたんじゃないのか…??…悪い奴じゃないんだが、空気を読むのは下手だから…「もういい!!俺以外の人のことそんなに話すな!!!!」」
…とんだ発言をしてしまった。
恥ずかし過ぎて今すぐどこかに隠れたい…。
「すげぇな横澤。俺、まじ嬉しすぎて死にそうなんだけど。」
案の定、桐嶋さんは意地の悪い笑みを浮かべている。
「い、今のは聞かなかったことにしろ…。俺はか、帰る!!」
でもそれを許す桐嶋さんなわけがない。
「いいや、横澤。お前を不安にさせた罪滅ぼしのために今から一緒に家に帰ろう。…というか帰るぞ。…安心しろ、ひよはゆきちゃん家だ。」
「何が『安心しろ』だ!!俺は自分の家に帰るぞ!!」
「お前の家は俺とひよの家だろ。」
…いっぺんしんでこい!!!!
[32回]
PR
COMMENT