「忍。お前何でこんなところにいるんだよ。」
俺は少し動転していたが、何とか平然としようと、一言忍に返した。
「宮城こそ……その人は……。」
すると忍の隣にいた男が、忍に話しかけた。
「その人は俺の母親。R大文学部の助教授やっているんだ。…というか…あなたが宮城教授ですか。母がお世話になっています。母と仲が良いみたいで…嬉しいです。あ、俺はその人の息子です。T大法学部で、忍とはちょー仲良しな関係です。」
そう言って、助教授の息子は、忍に絡みつくようにくっついてきた。
それを見た俺は、酒の力もあったからか、頭の中の何かがキレた。
「お前…いい度胸しているな、若造が。こんな遅くまで忍をふらふらさせやがって…、ふざけるなよ。」
「お、おい、み、みやぎ…?!」
「あなたは母が好きなんでしょう??何で関係ない忍のことを縛る様な発言をするんです。」
どうやらこの息子は忍が好きらしい。
俺に対して挑戦的な目を向けている。
良いだろう。今日は酔っていることもあるから、ここは大人としてぎゃふんと言ってやろう。
「いいか青少年。良く聞けよ。俺はいい年したおっさんだ。でもな、そんなおっさんでも、俺のことを好きだと言ってくれて、いつまでも大事だって言ってくれる奴がいる。そいつが……お前の隣にいる高槻忍だ。俺はそんな忍を絶対に手放さない。…俺もまた、こいつのことをずっと大事にしていたいから。」
言い切ってしまった。
でもすっきりした。
たまにはきちんと言葉で言うのも大事だよな。
「さて、と。忍、とりあえず帰るぞ。助教授の息子、母親は大事にしろよ。」
こうして、俺は忍の手を引いて、二人の家へと足を向けた。
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家の扉を閉め、ようやく緊張の糸が切れた。
忍は未だ黙って俯いたままだった。
とにかく俺は、何とかなけなしの理性を保ち、お互いにこれまでの経緯を話すことにした。
そこで俺が感じたのは……
同じ屋根の下に住んでいるにも拘らず、こんなにも俺は忍のことをわかっていなかったということだった。
一通り話し終えた後、忍がうつむきながらぽつぽつと話し始めた。
[3回]
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