「ぐはっ…お、終わったぁ…。」
ここは丸川書店エメラルド編集部。
例の如く、来月号の校了時期であり、編集部全体は暗黒ムードであった。
「もう俺死ぬぅ…お先ぃ~。」
「俺も先に帰宅する…お先に。」
とても実年齢の三十路には見えない木佐と、副編集長の羽鳥が、律の終了コールと共に帰宅の路へとついた。
「僕もお先ね…小野寺君お疲れ~。」
少しして、不敵に微笑みながらフラフラと美濃が帰路についた。
そして、それと入れ違いに会議に出ていたエメラルド編集部編集長の高野が編集部に戻ってきた。
彼の目の下にも、校了時期を物語る隈がくっきりとあった。
「お、お疲れさまです…。」
律は机から少しだけ顔を出し、挨拶だけすると、机に再び沈んだ。
「おい…それが編集長に対する態度か…小野寺。もう少し労えよ。
」
「しょうがないでしょ…校了明けなんですから…。」
ふっと再び律が顔を上げると、ちょうど高野がふらつき、机に手をつこうとしていた。
「た、高野さん?!!」
いつもの通りの減らず口な高野だったので、律は高野の異変に気づかなかった。
咄嗟に律は立ち上がり、倒れそうになる高野を支えた。
「わりぃ…。」
「いえ…こちらこそ体調、気づかなくて…すいませんでした…。」
先程までの態度とは一変し、高野を心配そうに見つめる律。
その様子に安堵したのか、高野はゆっくりと自分の椅子に座った。
「何か飲みますか??あったかいものとか…。」
「いや、いい。…少し寝たいから、手、握ってて、律。」
珍しく弱々しくおねだりをする高野に、流石にいつものようには怒れない律は、顔を真っ赤にしながら、高野の大きい手をしっかりと掴んだ。
「き、今日だけですからね!!た、高野さんが起きるまでですからね!!!」
「うん、ありがとう、律。」
いつもの俺様の態度と一変し、優しく律に高野は微笑んだ。
その表情を見た小野寺は、他の人に手を繋いでいることがバレないよう、高野のデスクの陰に隠れるようにしゃがんだのであった。
[8回]
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