「やっぱ、いつ来ても丸川ってでっけぇー建物だよなぁ……。」
それは、珍しく…ほんとに珍しく進行が順調で、気分転換に外出したときのこと。
俺はそのときの咄嗟のひらめきで、そろそろ退社するであろうトリを会社で待ち構えて驚かし、一緒に帰ろうと企んだ。
もちろん、あの鉄仮面をたまには崩してみたい…という俺のひそかな願望のため、だ。
そうとなれば、と、俺は丸川の前までやってきて、冒頭に至るわけで。
「トリまだかなー…。」
外も結構暑かったから、俺はロビーで出待ちすることにした。
少しして、ロビーへ一人の男の人が降りてきた。
…確かあの人は……。
「桐嶋編集長。」
「…あれ、えーっと、確か…吉川先生、ですよね??」
「はい。新年会以来…でしたよ、ね??お久しぶりです。」
俺は慌てて会釈をした。
桐嶋さんって、結構大人…な感じ。
編集長をやっているだけあって、すんごくなんでも任せられそうな雰囲気を持っている。
「吉川先生は、誰か待っていらっしゃるんですか??」
「あ、はい。羽鳥と打ち合わせを…。」
流石に桐嶋さんに真意を言うわけにもいかず、咄嗟に嘘をついた。
う、うまくごまかせていたかな…桐嶋さんには何でもお見通しな気がした。
「そうですか、私も同じく人待ちで。…羽鳥はよく働いていますよね。敏腕の噂はよく耳にしますよ。私のところに是非とも欲しい人材です。」
「えへへ…ありがとうございます。」
トリのことを褒められるのは、俺もすんごく嬉しかった。
嬉しくて、つい微笑んでさっきのようなことを言ってしまった。
だ、大丈夫かな……。
少しして、桐嶋さんは待ち人が来たらしく、ロビーを後にしていた。
それと入れ違いに、俺の待ち人-------トリもやってきた。
「吉野、お前何でこんなところにいるんだ。」
…なぜかすごく不機嫌そうな顔をして。
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どうしてだか、トリは俺と会ってからずっと、すごく不機嫌そうだった。
せっかく驚かしてウキウキしながら一緒に帰ろうと思っていたのに、これじゃあ逆効果だ。
そんな重苦しい空気で俺の家まで帰り、流石に耐え切れなくなった俺は、トリに真意を問うた。
「なんでそんなに機嫌悪いんだよ、お前。俺が会社に来るの、そんなに嫌だった??」
「いや、嬉しかったよ。」
そこについては、本当に嬉しいようだったが、なんとなくまだ怒っている気がした。
「じゃあその不機嫌面はなんだよ!!せっかく久々に一緒に帰るってことできたのにさぁ…大学以来だろ、こういうの。」
俺が怒ってどうする…って頭の片隅では思っていたけど、どうしても少し口調を強くしていってしまった。
するとトリが重い口を開いた。
「お前、桐嶋さんと何話していた??」
「へ??」
「桐嶋さんと楽しそうに話していただろう。」
「は??それはたまたま会ったら挨拶ぐらいするだろ??」
「でもお前、笑っていただろう。」
そこまで話をして、なんとなく、もしやと思う考えにたどり着いた。
「も、もしかして…トリ、嫉妬??」
「……。」
図星らしい。
これは早急に真実を伝えて、トリの機嫌を直すに限るな。
「桐嶋さんがトリのことを褒めていたんだよ!!だから俺嬉しくて…それで…。」
そこまで俺が言うと、トリはいきなり俺を抱きしめてきた。
「ごめん、千秋。ちょっと疲れていたから…つまらん嫉妬をした。」
「疲れているならすぐ言えよな…。でも良いよ、わかってくれたなら。」
そう言って、俺は自慢の恋人------トリの背中に手をまわしたんだ。
[4回]
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