side:K
丸川書店の社長-----井坂家当主である旦那様のご希望で、3日ほど龍一郎様の傍を離れることになった。
決まって龍一郎様は我慢をなさるので、戻った際はめい一杯甘えていただこうと思っていた。
しかし、想像を遥かに超える事件が発生した。
井坂龍一郎、横領の罪を問われ、自ら逃走。
私はこのことを聞いたとき、目の前が真っ暗になった。
龍一郎様が…いない……
そんなことは絶対おこらないことだと思っていた。
しかし現実におこってしまったのだ。
私は、その日半休をもらい、帰宅することにした。
想像以上に動揺が大きく、仕事どころではなかったからだ。
帰宅後、私はすぐ自棄酒に浸ってしまった。
時計の針が頂点を過ぎた頃、流石に翌日に影響が出てしまうと思い、自分を叱咤しながら片付けを始めた。
その時、奇跡と思われる出来事が起きたのだ。
「朝比奈っ!!!!お前、クビになったりしてないか?!」
「りゅう、いちろう…さま?!!!」
私の主人であり、世界一愛していらっしゃる-----井坂龍一郎様が私の目の前に現れたのだ。
龍一郎様は、スーツではラフな格好をされていた。
「お前は何処まで事情を知っているのかわからねぇけど、わかったことも含めて話がある。」
そう言って、龍一郎様は一方的に話し始められた。
龍一郎様の話によると、
龍一郎様が執務室から抜け出して、まず行ったことは「現金入手」だったそうだ。
すぐにカード類は止められたらしく、龍一郎様の読みは当たったそうだ。
そしてこっそり井坂邸に入り、最低限の私物を引き上げたそうだ。
「今はどこで寝泊まりを…??」
「秋彦の名前でホテルを借りてもらってそこにいる。でも時間の問題だからな…明日にはチェックアウトするつもりだ。」
龍一郎様は追われる身となっているにも関わらず、テキパキト最善策をとっていらっしゃった。
それなのに私は…。
「朝比奈。」
部屋の酒瓶に気づいた龍一郎様は、少し顔をしかめて私をお呼びになった。
「はい、龍一郎様。」
「心配するな。俺が横領なんて姑息なことは絶対しねぇ。それはお前が一番わかってるだろう。…だからお前はこうしてくれれば良い。」
そうやって龍一郎様は、私をぎゅっと抱き締めてきた。
そこでようやく私は気づいた。
…龍一郎様が一番不安な状況だということに。
「大変失礼いたしました、龍一郎様。恋人失格ですね、私は。」
「…全然。…俺はお前が俺から離れなければ他はなにもいらねぇ。でもお前とずっと傍にいるためにも、絶対無実を証明する。」
「私も明日から出社して、何か証拠となるものがないか、探して参ります。…ですから龍一郎様、辛いときは必ず私のところへいらしてください。あなたの心が少しでも安らぐのでしたら、私が持てる全て、あなたのためにお使いください…。」
「有難う…薫。とりあえず今日はお前といっ、しょに…寝たい…。」
この上ない言葉を発しながら、龍一郎様は私の腕の中で眠られた。
To be continued...
[2回]
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