side:R
まだ日の出から差ほどたっていない頃、俺は朝比奈の眠るベッドから抜け出し、身支度を整えた。
朝比奈が自棄酒に浸っていたのは少し心配だが、それは完全に俺のことでだったようなので、顔をあわせられた時点で少しは朝比奈も浮上できたようだった。
あとは俺が頑張るだけだ。
あまり朝比奈に甘えると、俺はどんどん弱くなりそうだから、とりあえず1週間は頑張ってみようと思う。
何せ俺には優秀な恋人・朝比奈薫がいるのだから。
「龍一郎…様??」
まだ寝ぼけている朝比奈は、寝起き特有のかすれた声で俺を呼んだ。
「秋彦名義で借りたホテルをチェックアウトしなきゃならねぇから、もう行く。ここも長居してちゃあ、警察が嗅ぎつけてくるだろうしな。…さて、と…って、朝比奈?!」
部屋を出ようと後ろを振り返った途端、朝比奈が背後から強く抱き締めてきた。
「…いっていらっしゃいませ、龍一郎様。…お送り出来ないことが大変悔やまれますが、せめて御守りに…。」
そう言って朝比奈は優しく俺に口づけた。
本当に御守りのような軽い口付け。
でも俺には、この口づけで朝比奈の優しさがじんわり体に染み渡るような感覚に陥った。
凄く落ち着く-------。
「さんきゅ。…片付いたらちゃんと俺からもしっかり『御守り』やるからな//」
「はい、お待ちしております。」
朝比奈の優しい笑みを見て、俺は朝比奈宅をあとにした。
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side:K
龍一郎様が出かけられた後、私も出社した。
会社へ行くと、旦那様の指示で、私は旦那様の臨時秘書に就きながら、龍一郎様の最近の行いを書類にまとめる作業をすることとなった。
流石に社長である旦那様の仕事管理は一筋縄ではいかないものが見受けられたりしたが、龍一郎様のことを思い、一心に取り組んだ。
午後になり、休憩をとりに外へ行こうとしたところ、ジャプン編集長の桐嶋さんに会った。
この桐嶋さんがキーとなる情報を握っていた。
「あ、朝比奈さん。今休憩ですか??」
「はい、ちょうど今からです。」
「そうしたらちょっとご一緒して良いですか??-----井坂のことで少しお話が。」
桐嶋さんと龍一郎様は同期入社だった。
龍一郎様は勿論、桐嶋さんも一癖以上ある人で、龍一郎様とも仲がよろしかったようだった。
その彼が、龍一郎様の件で話がある…ということは、今回の警察沙汰の件について、ということだろう。
ならば迷うことはない。
私は即首を縦に頷き、二人で近くのカフェへと足を運んだ。
「実は、この話は営業の横澤から聞いた話なんですが。」
営業の横澤と言えば、「丸川の暴れ熊」という異名の持ち主の彼だろう。
若いのに、営業のエースだと耳にしたことがあった。
「そいつが、『井坂さんは嵌められたのかもしれない』って言っていて。最近、取締役の一部で、反社長派が出来ているらしく、そいつらが『まずは専務』って話をしていたってのを、営業部長が話していたそうで。ソース的にもかなり信頼できそうだから朝比奈さんに伝えとこうかなと。…井坂の無実を証明するのを手伝いそうだったから。」
どうやら彼は私と龍一郎様との関係に気づいているようだ。
とりあえず秘書としての言葉を返しておく。
「わざわざ有り難うございます。…そうですね、専務が無実なのを知っているのは一番お側に長くいる私でしょうから、専務を信じたいものです。」
「流石は朝比奈さん。切り返し巧いですね。…それじゃ俺これから会議なので、また。何かあったらまた話しますね。」
私は再度桐嶋さんに御礼を言い、少し冷めたコーヒーを飲み干した。
to be continued...
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