「3日で終わらす」と宣言した俺だったが、三蔵が睨んだ通り、商談はなかなかまとまらなかった。
…同行していた上司がヘナチョコだった…ってのが主な原因だが。
でも、毎日寝る前には八戒に電話をして、たわいのない話をした。
そんな日が3日続き、4日目の夜の電話で、俺は漸く八戒の異変に気がついた。
「もしもーし、八戒??」
俺はいつものように八戒に電話をかけていた。
『悟浄……!!』
対する八戒は叫ぶように俺の名前を呼んだ。
「ど、どうした?!何かあったのか八戒!!」
こういうときに傍にいられないのが本当に悔しい。
電話じゃあ、八戒がどこにいるかもわからない。
『だ、大丈夫です。それより、お仕事の方はどうですか…??あまり無理はしないでくださいね。』
八戒の声から、覇気が全く伝わってこない。
気がついたら俺は、頭の中で八戒の元へ行く計算をしていた。
「あと3時間寝ないで待ってろ!!」
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ダッシュで最終の新幹線に飛び乗り、八戒の家には宣言通り、電話から3時間後だった。
「悟浄!!本当に来ちゃったんですか!!仕事は??」
「朝一で帰れば間に合う。それよりもお前だ八戒。…そんなに目腫れちゃって…。」
八戒の目は、誰が見てもわかるくらい腫れていた。…まるで泣きはらしたかのように。
「こ、これは…え、映画で…。」
珍しく歯切れの悪い八戒。
絶対何かあったんだってことが伝わってくる。
「…俺、前に言ったよな。お前の全てを好きになりたいって。…何があったんだ、八戒。」
八戒は下を見たまま、動かないままだった。
…そう、こいつも俺も、結構頑固者なんだ。
だからあと一押し以上必要。
「俺じゃ頼りない??」
顔をのぞき込むように八戒に一押しする言葉をかけた。
すると、漸く観念した八戒は、重い口を開いた。
「夢を…見たんです。」
ぽつりと一言そう言った八戒。
俺はその先を促すように、黙って八戒を見つめた。
「前、交通事故で大事だった人を失ったって…話しましたよね。」
「あぁ、うん。」
「その人が、『今度は今あなたが大切な人を奪ってあげる』…と、夢の中で僕に言ってきたんです。」
「そこまでの夢なら何度も見てきました。でも今日は…違ったんです。」
知らなかった。
そんな夢を八戒は幾度となく見ていたと、さも当たり前のように言う。
俺はそんなことも知らずにただただ想いを伝えていたことに腹が立った。
「今日は…悟浄が…悟浄が……!!」
そこまでが八戒の限界だった。
八戒は崩れるように床に座り込み、自分を抱き締めるかのように、自分の腕を回した。
俺はそんな八戒を宥めるように頭を撫でてやることしか出来なかった------。
「僕…もう誰も失いたくない…!!失わなくて済むのなら、独りも…「大丈夫だ、俺は失わせねぇ。」…悟浄…??」
「勝手に人を柔に扱うなよ…。こちとら勝手に命奪われようとも思ってねぇよ。意地汚く生きてやるから安心しろ。」
こんな言葉が未来を確信出来る言葉ではないとはわかってる。
でも。
それでもこいつを独りには出来ない。
こいつの隣にいたいから。
そのためならどんな陳腐な言葉だって言ってやる。
八戒が少しでも安心できるように。
「…俺やっぱお前のこと好きだわ~。」
「…ありがとうございます、悟浄。僕も…僕もあなたが大好きです。」
「あったり前だ。…それに、な。ガキの頃約束しただろ??『さいきょーのイケメンになったら八戒をしっかり護ってやる』…ってな。」
「そうでしたね…!!それじゃあ、約束、守ってもらいますか。」
「おう。任せとけ。」
こうして波乱の出張は幕を閉じた。
そのあと仕事はどうしたって??
勿論きっちり終わらせたぜ♪
デキルオトコは違うのよー♪
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