桐嶋さんから夕方、メールがきた。
どうやら急な接待が入ったらしく、ひよと家にいてくれとのことだった。
いつものことなので、俺は一言「了解」と送った。
退社後はひよと二人で夕食を作って食べ、ひよの宿題を見てやった。
ひよが寝た後、風呂に入り、持ち帰った仕事の目処もたったので、寝ようかといつもの客間へと移動しようとしたそのとき。
玄関の開く音がした。
「お、おかえりなさい。」
声かけに少し迷ったが、一応はと一言声をかけた。
しかし帰宅した家主----桐嶋さんからは何の応答もなく、玄関で座り込んだままだった。
もしや飲み過ぎたのか…と、様子見で桐嶋さんに近づくと、勢いよく腕を掴まれ、抱き寄せられた。
「お、おい桐嶋さん…!!」
ひよを起こさないよう、声を抑えて叱咤したが、桐嶋さんは腕を解こうとしない。
俺は抵抗しもがいたが、やがて桐嶋さんは口を開いた。
「横澤…俺は…お前を護れているか…??…辛くはない…か??」
発された言葉は、いつもの飄々とした態度からは想像も出来ないほどの弱気な発言だった。
どうしたものか…と俺が困っている間に、桐嶋さんはぽつぽつと事情を話してきた。
桐嶋さんの話によると、帰りのタクシーで見た夢で、死んだ奥さんが出てきて、一言、「あなたは護れたと思っていても、何も護れていない」と言われてしまったらしい。
それに加え、久々に酔いが回っていた、という事情もあり、桐嶋さんは一気に不安になってしまったようだった。
こんな風に弱気になっている桐嶋さんを見てしまうと、その原因は俺にあることをまじまじと感じてしまう。
いつも俺は、桐嶋さんに対して刺々しい態度を取り、感謝のひとつも言ったりできない。
そんなところも含めて「好きだ」と言ってくれている桐嶋さんに俺は何度甘えてきたのだろうか。
それこそ、桐嶋さんを不安にさせてしまう主な原因なのではないだろうか。
そう考え、俺は勇気を振り絞って桐嶋さんに自分からキスをした。
「たか、ふみ……??」
桐嶋さんは何が起こったのかわからないといった表情だった。
今のうち、と、俺は思ったことを一気に話した。
「安心しろ。あんたが思っている以上に俺はあんたのこと…ずっと大事にしたいと思っているから。辛くなんかない。むしろいつも救われているよ。…ありがとう。」
「そうか…うん。よかっ……た……。」
そう言って、桐嶋さんは俺にしがみつく様な体制でそのまま眠ってしまった。
次の日、事情をもう少し聞いてみようと、桐嶋さんに話したら、全く覚えていなかった。
…良かったのやら悪かったのやら…。
でも、桐嶋さんの本当の心の叫びを聞けた気がして、俺は少しだけ…ほんの少しだけ嬉しかったのだった。
[45回]
PR
COMMENT
拍手コメントありがとうございました
はじめまして!おかのてるです。
ついったからのお越しとのこと。初めてそのようなお言葉をいただいたのでとても嬉しいです!ありがとうございます。
確かに公式小説では横澤さん視点ではありますが、
桐嶋さんの心の内を読み取りきれずにいる横澤さん、、、ですよね~。
それがまたきゅんvとくるんですが笑
またのお越しをお待ちしております!
おかのてる