これは遥か昔の遠い昔のおはなし。
あるところに、京都一と歌われる陰陽師として君臨している、「ろい」という名の者がおりました。
ろいは黒髪が綺麗で、おなごのような美しい美貌を持っている人物でした。
ろいの心を奪おうと、京都中のおなごたちはこぞってろいの元を訪ねて来ましたが、ろいはそんなことに目もくれず、ひたすら屋敷にある大きな木から、外の様子を見ていました。
あるとき、陰陽師であるろいの元を、ろいの親友である「ひゆうず」が訪ねて来ました。
「ろーい、ろーい!!いるんだろー。降りてきてくれよー。」
流石に親友が来たというのに、無視をするわけにもいかず、ろいは木から降りてきました。
「なんだ、ひゆうず。また面倒事を持ってきたのなら帰りたまえよ。」
だるそうに言葉を発しながらも、ひゆうずの言葉に返答するろい。
「最近、京の妖かしたちに、筆頭が出来たって噂なんだよ。そんでその妖かしの筆頭が、人間そっくりのイケメンらしくて、夜な夜な女を襲っているって噂なんだ…。そんなやからに、俺のエリシアとグレイシアが襲われやしないか心配で夜も眠れないんだよー。だからよ、ろい。お前の力で妖かしを追っ払うか噂が嘘だったって証明してくれないか??」
ひゆうずは体をくねらせながら、ろいに妖かし退治を依頼してきました。
ろいは京都一の陰陽師なので、ひゆうずのような依頼はゴマンときます。それらの依頼のたいていは、害をなす妖怪の仕業ではないので、ろいは妖怪を諭して逃がしてやっていました。そんなわけでろいは、毎回面倒な依頼ばかりで飽き飽きして、依頼を受けなくなってしまったのです。
しかし、ひゆうずの依頼はとても楽しいものばかりなので、いつも見返りと共に受けているのでした。
「仕方のないやつだな…。まぁ、良い暇潰しにはなりそうだから受けてやろう、その依頼。見返りは甘味3食だぞ、ひゆうず。」
ろいはいつものように見返りをひゆうずに請求し、暇潰しがてら噂を解決することになりました。
…ところ変わりここはとある空き家。
ここに、京では珍しく金の髪を持った者がおりました。
名を「はぼっく」と言います。
はぼっくは、浴衣を着崩し、煙管で煙草を吸っていました。
そこにはぼっくの親友「ぶれだ」がやってきました。
「おいはぼ。お前が夜な夜な京をうろついては人の女をたぶらかしたせいで、陰陽師がついに動き始めたみたいだぞ…。しかも「ろい」っていう実力派なやつらしい。」
そう。
はぼっくは最近京で噂されている事件の犯人である妖かしだったのです。
はぼっくは、妖怪仲間のぶれだの忠告を物ともせず煙草をふかし続けました。
「俺を殺してくれるなら本望さ…。この世に未練はないしな…。」
「おまっ…仮にも京都一の妖かしの血をひいてるんだぞ??簡単に死ぬなんて言うんじゃねぇ!!お前が死んだら、京妖怪の均衡が崩れちまう!!」
ぶれだは必死の形相ではぼの発言を撤回させようとしましたが、はぼっくは撤回しませんでした。
「俺の血を崇める者、俺の外見に釣られる馬鹿げた人間の女……。誰も俺自身を見てくれやしない。ぶれだ、お前は別としてな。…もし俺を殺そうとしている陰陽師も同じやつなら、俺はそいつを殺し、俺も死ぬ。」
そう言い放ったはぼっくは、ぶれだを置いて、ひょいと座っていたところから飛び降り、夜の京の町へと歩き始めました。
つづく
[2回]
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