俺はジャン・ハボック。東部の田舎出身で、軍の東方司令部の実質司令官であるロイ・マスタング大佐の護衛官として働いている。
今日もいつものように護衛官としての雑務…上司捜索にあたることになりそうだ。
「まぁーた大佐いないのかよ…。」
「書類がこんなにたまっていらっしゃるのに…よく抜け出そうと思いますね…大佐。」
「中尉に見つかったら俺ら殺されるぞ…。」
「今日はただでさえ忙しいのに~っ。それだけは勘弁ですよ~。」
各々大佐への文句を呟き、すぐさま一斉に外回り帰りの俺を見た。
「……。オレニ、ナニカ??」
「ハボっ!!お前大佐探してこい!!書類少し代わってやる!!」
「わ、私も少しお手伝いします!!」
「ぼ、僕も!!」
やつらはいきなり一斉に俺の仕事を肩代わりする…という理由で大佐捜索を依頼していた。
…無理もないよな…大佐捜索のベストタイムは、何故か俺が保持している。
…きっと一刻を争うのだろう。
仕方ねぇ、と俺は新たな煙草をくわえ、司令部をあとにした。
大佐と俺のかくれんぼの始まりだ。
もちろん、鬼は俺。
俺の地元は、とにかく土地だけ有り余っていた。
だからやることはたいてい、そのだだっ広い土地を利用した遊びだった。
中でも俺が得意だったのがかくれんぼの「おに」だった。
ガキの頃から人より図体がでかかった(好きでそうなったわけではないが)から、隠れてもすぐに見つかって「おに」にされていた。
だから、自然と隠れるより見つける方がうまくなったわけだ。
さて、その経験から推測するに、本日の大佐の隠れ場所は多分……。
「司令部の広場の木陰…だな。」
今日は天気も良いし、この時間帯は一番木陰が気持ち良いに決まっている。
しかも大佐が選ぶ木はいつも同じ木なんだ。
俺は大佐がいるであろう木へと静かに近寄り、大佐の横にしゃがみ込んだ。
…寝息が聞こえないので、どうやら大佐は本気で寝てはいないらしい。
「…あんたいつも俺の手が空いているときに逃走していません??」
「さぁ、どうだろうな。」
話し掛けたいなや、目をしっかり見開いて俺を見る大佐。
大佐の熱い視線は、いつもの司令官としてではなく……情を燈した様な目だった。
その視線に何故か俺の心臓はいつになく緊張し、バクバク言っている。
(何を緊張しているんだ、俺っ!!)
「ハボック…顔が赤いぞ。熱でもあるのか??」
「へっ??…うわっ//」
少し眉を寄せた大佐は、俺の熱を測るために顔を近づけ、額通しをくっつけた。
ただそれだけなのに、俺は恥ずかしくて仕方がなかった。
大佐は男で、俺の上司で、俺の……。
俺の…なんだ??
「さっきから百面相だが、どうしたんだ…。ふふっ、お前らしくない。」
いつになく穏やかな表情をして俺に微笑んできた大佐。
…これは多分「心から」の表情…だな。
俺にはよく見せてくれる表情だ。
この表情を見る度、俺は幸せな気持ちになるし、彼の大切な「心からの表情」を護りたい…って思う。
俺は今自覚しようとしている想いに気づきつつも、「もう少し待ってて…」と言わんばかりに、俺の顔を見られないよう、大佐に飛びついた。
「手のかかる犬だな…まったく。」
「その手のかかる犬の飼い主はあんたでしょ。…俺もちょっと疲れちゃったから、少しだけ一緒に昼寝しても??」
「中尉が帰るまでなら構わんぞ。」
「有難うございます、サー。」
さぁて、今はまだ、「上司としての飼い主」と共に昼寝程度で我慢しよう。
…でもいつかは……
願わくば…
彼の隣で、「パートナー」として
共に安らぎを……
[1回]
PR
COMMENT