俺の名は横澤隆史。
丸川書店の漫画全般営業を担当している。
そんな俺が休みのある日、何をしているのかというと----------
「横澤のお兄ちゃん!!これとこれ、着てみても良い??」
「そっちのやつはもう少し明るめの赤を探して着てみたらどうだ??」
「わかった~。」
桐嶋日和-----ジャプン編集長・桐嶋蝉の一人娘-----こと、ひよがクリスマスパーティーに着て行くらしく、そのためのドレスを買いに一緒に来ていた。
桐嶋さんも一緒に行く予定だったが、校了前、ということもあって時間を作ることが出来ず、俺一人がひよと一緒に買い物に来ている。
ひよは少し寂しそうにしていたが、「横澤のお兄ちゃんが来てくれたから。」と可愛いことを言ってくれたので、少し高めのコーナーからドレスを選ばせている。
「どう??横澤のお兄ちゃん??」
「うーん、やっぱりもうひとつの赤色がいいんじゃないか??」
「お兄ちゃんが言うならそうしよっと。」
そう言って、ひよは嬉しそうに選んだドレスを持っていた。
「横澤のお兄ちゃん、あのね、実はパパにお兄ちゃんとお使いしてきてって頼まれてるんだ…。一緒に来てもらってもいい??」
桐嶋さんがひよにお使いを頼むのは珍しい。
余程急ぎのものなのか…と思ったが、ひよの頼みとあらば、お供をするまで。
俺は小さく縦に頷き、ひよは嬉しそうに俺の手を引っ張って前を歩いてくれた。
向かった先は式場用のタキシードが売っている店だった。
ひよが店員に伝票らしきものを渡し、店の奥から出てきたのは、白いシックなタキシードだった。
(何でタキシードなんか買ってるんだ…??しかも白って…新郎が着るようなものだし…)
そう思ったところで、ふと胸が苦しくなることが頭をよぎった。
『桐嶋さんが誰かと結婚する-----』
確かに、もうすぐ中学生になるひよには、ちゃんと「母親」が必要なんだと思う。
俺は男で、「丸川の暴れクマ」と言われる程、愛想も良くない。
桐嶋さんが「俺以外」に好きな人を見つけて、奥さんを作るのは至極当然…。
そこまで考えたところで、ひよが俺の服の裾を引っ張ったので、現実に引き戻された。
「お兄ちゃん、帰ろ??」
「あ、あぁ…そうだな。」
…このときの俺は、目の前が真っ暗になっていて、このあとに起こる最高のサプライズなど、予測も出来なかった。
[20回]
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