「横澤のお兄ちゃん!!ソラちゃんがすごく震えているよ!!どうしよう…!!」
桐嶋さんが休日出勤のため、休みだった俺は家で一人になってしまうひよの様子を見に来ていた。
問題なく1日が過ぎようとした矢先、俺に発せられたひよの言葉がこれだった。
「…ん……??でもひよ、今は震えてないよな??」
ひよがソラ太を抱えて出てきたので、すぐにひよから俺はソラ太を受け取り、様子を見たが、俺に抱えられてすぐ、ソラ太は俺の胸にすり寄ってきた。まるでひと肌が恋しかったようだった。
「ほんとだ…。そういえばひよが抱えたときも、今みたいに震えてなかったような気がするし、ひよの体にすりすりしてきた気がする…。」
ソラ太が変な病気とかではなさそうだと分かった途端、ひよは力が抜けたように廊下でへたりと座り込んだ。
「でもソラ太のこと、心配してくれたんだよな。有難う、ひよ。」
「うん、ひよ、ソラちゃんが変な病気にかかっちゃったんじゃないかって心配だったから……。良かった…!!でもお兄ちゃんや私に抱えられると震えが止まるって…ソラちゃん、ただ寒かっただけなのかもね!!」
確かに今日は冷える。いくら全身に毛が生えている猫のソラ太でも、寒かったのかもしれない。
「そうだな。今日は冷えるから、ソラ太も寒かったんだろうな。今日はソラ太と一緒の布団で寝てやってくれないか??ひよ。」
「うん!!私もソラちゃんと一緒に寝たらあったかいし、いいよ!!それじゃあお休み、横澤のお兄ちゃん。」
「あぁ、お休み、ひよ。」
真夜中近くになって、桐嶋さんは少しヘロヘロな様子で帰ってきた。
「ただいま……。」
「お帰り、桐嶋さん。飯は??」
「朝から食べてない…。『横澤お手製』の飯食べないと寝られないわ…。」
「全く…そういう冗談はよしてくれ。お茶漬けくらいなら作れるけど、それで良いか??外、寒かっただろうから…。」
「冗談じゃないけどな。じゃあ遠慮なく『横澤お手製』茶漬け、もらう。」
「……っ、わかった。温めなおすからそれまでに風呂入ってこいよ。」
恥ずかしいことばかり言ってくる桐嶋さんを黙らせるために、いち早く桐嶋さんを風呂に入れてしまおうと思った。
でもそういう考えも桐嶋さんはお見通しらしい。
「俺と話すのそんなに嫌か…??」
「そ、そんなんじゃないが……。」
「俺も寒いから、横澤、ぎゅーってして。」
「はぁ??」
桐嶋さんの口から、「ぎゅー」なんて可愛い言葉が出てくるとは思わなかったが、なぜいきなり俺が桐嶋さんを…その…ぎゅーってしなきゃならないのか訳がわからなかった。
「寒いなら、風呂で温まれば良いだろ…。」
「…ソラ太には、寒かったらぎゅーってしてやるのに、愛する恋人にはしてくれないのか。」
真面目な顔でそんなことを言ってきたので、俺はワンテンポ反応が遅れてしまった。それを見逃さない桐嶋さんは、すっと俺に近づき、腰をホールドして抱き着いてきた。
「横澤……」
耳元で情事を思い出させるような色っぽい声で名前を呼ばれては、こちらもいたたまれなくなる。
「横澤…寒い。」
我慢の限界だった俺は、休日出勤を頑張ってきた桐嶋さんを労う…という下手な理由を自分につけて、お望み通り、少し力を入れて抱きしめてやった。
…今、絶対俺の顔は尋常じゃないくらい赤いはずだ。全身が熱くてたまらない。
「お前…ほんと可愛い。…こっち向いて。」
くいっと俺の顎を掴み、俺は無理やり桐嶋さんの方に顔を向けさせられた。
そのときに目が合ってしまったのだが、桐嶋さんの目はすごく穏やかで、幸せそうな目だった。
…たまには。
至極たまには。
こんな風に、少しだけ素直になって、桐嶋さんを労っても良いかな…と思った俺は
やっぱり大変な人に捕まったんじゃないか…と頭の片隅で思ったのだった。
**後日談**
「そういや、ソラ太が寒がっていたの、なんであんたが知っているんだ??」
「ひよがメールで、『ソラちゃんがガタガタ震えていたから、病気かと思ったけど、横澤のお兄ちゃんがぎゅーってしたら、ソラちゃんの震えが止まりました。お兄ちゃんの体温が恋しかったんだね。』って言ってたから。」
「いや…ソラ太を抱えたら、すり寄ってきただけだし、現に俺がソラ太を抱えたときには震えが止まっていたし……。というか、そのメールで何であんたは俺に抱き着いてきたのかわからん。」
「…お前の体温を奪っていいのは俺だけだから。」
「はぁ??…あ、あんたソラ太に嫉妬していたのか…??」
「言っただろ、俺とお前はよく似ている。独占欲が強いところから、お互い大好きだってところまで…な。」
「は、恥ずかしいやつ///」
[23回]
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